このほど、平成22年度税制改正大綱が公表されました。
そのうち、相続税・贈与税の考え方について、次のように述べられています。
相続税は格差是正の観点から、非常に重要な税です。
バブル期の地価急騰に伴い、相続税の対象者が急激に広がったことなどから、基礎控除の引上げや小規模宅地等の課税の特例の拡充により、対象者を抑制する等の改正が行われました。
バブル崩壊後、地価が下落したにもかかわらず、基礎控除の引下げ等は行われてきませんでした。
そのため、相続税は100人に4人しか負担しない構造となり、最高税率の引下げを含む税率構造の緩和も行われてきた結果、再分配機能が果たせているとは言えません。
また、金融資産の増加などの環境の変化が見られます。
今後、格差是正の観点から、相続税の課税ベース、税率構造の見直しについて平成23年度改正を目指します。
その見直しに当たっては、我が国社会の安定や活力に不可欠な中堅資産家層の育成や事業の円滑な承継等に配慮しつつ、本人の努力とは関係のない大きな格差が固定化しない社会の構築や課税の公平性に配慮すべきです。
さらに、相続税の課税方式の見直しに併せて、現役世代への生前贈与による財産の有効活用などの視点を含めて、贈与税のあり方も見直していく必要があります。
また、法人等を利用した租税回避への対応など、課税の適正化の観点からの見直しを引き続き行っていきます。
以下、長嶋の個人的な解釈です。
【相続税の増税への改正は平成23年度を目指します】
相続税の改正は間違いなく「増税」の方向に進むことが明記されました。
「100人に4人の課税では少なすぎる」とはっきりと述べられています。
ただし、やみくもに相続税を増税するのではなく、日本経済を支える中小企業の経営者については、それなりの配慮をします。
しかしながら、遺産相続により国民の資産格差が大きくなることを避けるため、相続税の増税を行うようです。
つまり、「資産格差=悪」とするならば、そのための相続税の増税は構わないと解釈することもできると思います。
「課税の公平性に配慮すべき」とも述べられていますが、もし、相続税増税の前提条件が「資産格差=悪」とするならば、前提条件が公平なのか、という問題もあります。
何をもって公平なのか、非常に難しいところです。
【金融資産の増加=相続税を増税しても影響なし!?】
相続税は、原則として現金で支払います。
「金融資産の増加などの環境の変化」が指摘されていますが、相続税を払える現金を持っているのであれば、少々相続税を増税しても影響がないということでしょうか!?
相続税を払う現金が手許にない場合、相続した不動産を売却するなどして、現金を作る必要があります。
現在の経済状況を考えますと、不動産の買い手が少ないため、相続した不動産を売却して相続税を払うための現金を作ることが難しいこともあります。
現金などの金融資産が増加しているということは、相続税を払うことには困らないことを意味します。
この意味で、少々相続税を増税しても影響がない、と解釈することもできるのではないでしょうか。
【相続税の改正に併せて、贈与税も改正へ】
相続税の課税の方法を見直すことに併せて、贈与税の見直しが行われます。
相続税と贈与税の課税の方法については、税理士長嶋のこちらのブログを参考にしていただけたらと思います。
↓
【相続税法改正】相続税の課税強化検討へ:政府税制調査会(2009/11/16)
また、「生前贈与による財産の有効活用を行う」とは、経済の活性化を推進することを意味します。
住宅取得のための贈与の範囲が、現行500万円から1500万円に拡充されましたが、良い一例だと思います。
【法人を使った節税手法は制限されることに】
いわゆる「一人オーナー会社課税制度」(特殊支配同族会社における業務主宰役員給与の損金不算入制度)は廃止されましたが、新たな制限が平成23年度改正で講じられます。
特に、不動産管理会社・資産管理会社などのペーパーカンパニー色が強い会社は要注意だと思います。