平成23年度の税制改正の議論が行われていますが、贈与税の優遇制度を拡大する半面、相続税を増税する方向で検討されています。
(日本経済新聞10/24)
孫への贈与、税優遇拡大 政府税調検討 相続税は引き上げ
政府税制調査会は2011年度税制改正で、高齢者から孫へ向けた生前贈与をしやすくする検討に入った。
相続税の非課税枠を先取りする贈与税の非課税枠について、対象を2世代後の孫にまで拡大する案が有力。
現役世代への高齢者の資産移転を後押しすることで、消費の刺激につなげるのが狙いだ。
贈与税の負担を軽減する一方、相続税は基礎控除枠の縮小などによる増税も同時に検討。
生前贈与を促す。
【相続時精算課税制度の拡大】
贈与税の優遇制度の拡大とは、相続時精算課税制度を拡大することです。
相続時精算課税制度は、親から子への生前贈与を増加させることにより、景気刺激策として平成15年度の税制改正にて導入された経緯があります。
現在の相続時精算課税制度は、65歳以上の親から20歳以上の子への贈与について、2500万円まで贈与税を非課税としています。
しかし、高齢化が進みますと、贈与を受ける側の子供が60歳以上であることが多く、子供自身が老後の生活に備えるため、消費せず貯蓄に回す傾向が強まります。
そのため、景気刺激策として孫の世代に贈与を認めることで、孫世代に消費をしてもらおうという趣旨のようです。
【相続税は増税へ】
贈与税を優遇する一方、相続税の増税が検討されます。
相続税の増税の項目として、次のようなものが挙げられています。
(1)相続税の基礎控除の縮小
(2)相続税の税率構造の見直し
(3)生命保険金の相続税の非課税制度の廃止
(4)退職金の相続税の非課税制度の廃止
(1)相続税の基礎控除の縮小
現在、相続税の基礎控除は、次のように定められています。
相続税の基礎控除=5000万円+1000万円×法定相続人の数
バブル時代、相続税の負担が大きくなったため、次のような経緯で相続税の基礎控除は拡大されてきました。
税制改正時期 | 基礎控除 | 法定相続人一人当たり |
昭和62年12月以前 | 2000万円 | 400万円 |
昭和63年1月以降 | 4000万円 | 800万円 |
平成4年度税制改正 | 4800万円 | 950万円 |
平成6年度税制改正 | 5000万円 | 1000万円 |
バブル時代の相続税の優遇を廃止するという考え方をすれば、基礎控除は2000万円、法定相続人一人当たり400万円まで縮小される可能性があります。
もし、相続人が妻・子供2人である場合、
現在の相続税の基礎控除=5000万円+1000万円×3=8000万円
バブル時代前の基礎控除=2000万円+400万円×3=3200万円
となり、相続税の基礎控除が4800万円減少します。
3200万円の財産があれば相続税が課税されるとすれば、ご自宅と退職金をお持ちの方であれば、どなたにも相続税が課税される可能性があります。
(2)相続税の税率構造の見直し
現在、相続税の税率構造は、次のように定められています。
・最低税率10% 課税価格1000万円以下
・最高税率50% 課税価格3億円超
バブル時代、相続税の負担が大きくなったため、次のような経緯で相続税の税率は縮小されてきました。
税制改正時期 | 相続税の最低税率 | 相続税の最高税率 |
昭和62年12月以前 | 10%(課税価格200万円以下) | 75%(課税価格5億円超) |
昭和63年1月以降 | 10%(課税価格400万円以下) | 70%(課税価格5億円超) |
平成4年度税制改正 | 10%(課税価格700万円以下) | 70%(課税価格10億円超) |
平成6年度税制改正 | 10%(課税価格800万円以下) | 70%(課税価格20億円超) |
平成15年1月以降 | 10%(課税価格1000万円以下) | 50%(課税価格3億円超) |
バブル時代の相続税の優遇を廃止するという考え方をすれば、最低税率の10%は変わらず、課税価格の引き下げが予想されます。
また、最高税率を引き上げるのか、課税価格を引き下げるのか、注目されるところです。
(3)生命保険金の相続税の非課税制度の廃止
現在、生命保険金についての相続税の非課税制度は、次のように定められています。
生命保険金の相続税非課税=500万円×法定相続人の数
バブル時代、相続税の負担が大きくなったため、次のような経緯で生命保険金の非課税制度は拡大されてきました。
税制改正時期 | 法定相続人一人当たり |
昭和62年12月以前 | 250万円 |
昭和63年1月以降 | 500万円 |
バブル時代の相続税の優遇を廃止するという考え方をすれば、生命保険金の非課税枠は法定相続人一人当たり250万円に引き下げられることになると思います。
しかし、非課税制度そのものを廃止することも検討されていますので、注目されるところです。
(4)退職金の相続税の非課税制度の廃止
現在、退職金についての相続税の非課税制度は、次のように定められています。
生命保険金の相続税非課税=500万円×法定相続人の数
バブル時代、相続税の負担が大きくなったため、次のような経緯で退職金の非課税制度は拡大されてきました。
税制改正時期 | 法定相続人一人当たり |
昭和62年12月以前 | 200万円 |
昭和63年1月以降 | 500万円 |
バブル時代の相続税の優遇を廃止するという考え方をすれば、退職金の非課税枠は法定相続人一人当たり200万円に引き下げられることになると思います。
しかし、非課税制度そのものを廃止することも検討されていますので、注目されるところです。
【相続税対策の見直しをすることも検討】
相続税対策をされている方は、あくまでも現行の相続税法についての対策をされているだけだと思います。
相続税法が改正されれば、ご自身が希望される結果にならない可能性が高まります。
相続税対策をされている方は、相続税法が改正されたとしても、ご自身が希望する結果になるのかどうか、検討されることをお勧めします。