マイケル・ジャクソンさんが突然この世を去ってから、1年が過ぎました。
彼ほどの有名人になりますと、遺産について取り巻く人間関係が非常に複雑になるものです。
彼は、彼自身が置かれている状況を十分に理解し、生前に優秀な弁護士などを利用して、彼自身に万が一のことがあったときのために、遺産相続プランを準備していたことは、賢明なことでした。
しかし、大変残念なことではありますが、彼の作ったトラストのうち、中心的な位置づけとなるトラストの書類が、今年になり何者かの手によってメディアに公開されてしまいました。
このことにより、世界中の人々が、彼が家族の誰を大切に思っているのかなどを知ることになりました。
彼は、中心的な位置づけとなるトラスト以外にも多くのトラストを作っていますが、その内容は保護されています。
※昨年7月1日に、ロサンゼルスの裁判所に遺言書が提出され、その前文が明らかになっています。
今年になりメディアに公開されたのは、彼の遺産が与えられたトラストの書類です。
結果的に、彼のプライバシーは守られませんでしたが、トラストによって、彼の意思の通りに彼の遺産は譲渡され運営されていくことは、確かなことです。
【マイケル・ジャクソンさんの遺産相続プラン】
彼の遺産は、トラストによって、次のような方針をポイントとして運営されます。
(1)遺産のうち20%は、
・彼の母親キャサリン・ジャクソン
・共同受託者であるジョン・ブランカ(彼の弁護士)とジョン・マクレーン(彼の友人の音楽関係者)
が選ぶ慈善活動へ寄付すること
(2)その後、遺産税(アメリカの相続税)などを支払い、
・残った遺産のうち50%を、彼の子供3人に平等に
・残りの50%の遺産は、彼の母親に
分配します。
(3)彼の母親に分配される遺産は、彼女のためのトラストに管理し、共同受託者が運営します。
もし、彼女が死亡した場合、遺産の残額は、マイケルの子供3人に平等に分配されます。
(4)彼の子供3人に分配される遺産は、子供用に作ったトラストに管理され、共同受託者が運営します。
彼の子供が21歳になったとき、トラストの収益は、すべて彼の子供に分配されます。
もし、彼の子供が一般な生活をすることや教育を受けることについて、トラストからの収入では不足をすると共同受託者が判断したときにのみ、遺産である元本を分配します。
彼の子供は、30歳までに、遺産である元本の1/3を受け取ります。
また、35歳までに、遺産である元本の1/2を受け取ります。
そして、残りの遺産である元本は、40歳のときに受け取ります。
共同受託者が必要であると判断したときは、共同受託者には、それ以上に分配できる権限が与えられています。
(5)もし、マイケルの母親や子供たちが、彼よりも早く死亡したときは、慈善活動へ寄付する20%以外は、
・マイケルの3人の従兄弟
・マイケルの甥
たちに、上記の子供たちへのプランと同じように分配されます。
(6)共同受託者が義務を果たせないときは、「バンク・オブ・アメリカ」を受託者として指定します。
ただし、現在の共同受託者は実際に運営しているため、現在の共同受託者に万が一のことがあったときは、自分たちを引き継ぐ受託者を指名することができます。
【彼の肉体はこの世に存在しませんが、彼の意思と想いはこの世に生き続けています】
マイケル自身の肉体は、もうこの世に存在しません。
しかしながら、上記のような遺産相続プランにより、
・彼の意思
・彼が愛する者への想い
は、今こうしてこの世に生き続けています。
彼の意思や愛する者への想い、そして遺産は、遺産が与えられたトラストによって、彼が愛する大切な家族へ、彼の希望通りに引き継がれていきます。
【彼の遺産相続プランは、特別なものではなく一般的なもの】
彼のような遺産相続プランは、アメリカでは特別なものではなく、一般的に作成されるものです。
専門家の目から見ましても、基本的な遺産相続プランの一つとなります。
特に、アメリカに資産をお持ちの方は、このような遺産相続プランを作っておくことが大切です。
【アメリカの永住権(グリーンカード)をお持ちの方は、遺言書は特に重要】
アメリカの永住権(グリーンカード)をお持ちの方が亡くなった場合、遺言書のある・なしで、その手続きが大きく異なります。
<遺言書がない場合>
アメリカの裁判所が、遺産の管理を行う相続代理人を指名します。
アメリカの州法に基づいて、誰がどの遺産を受け取るのかの命令を下します。
最終的に、遺産は法定相続人に分配されますが、裁判所の手続きは1~2年、あるいはそれ以上の期間が必要となります。
遺産が1年以上も凍結されてしまいますので、アメリカの遺産税(相続税)の納税が困難になることも予想されます。
また、1年以上の期間が必要なため、弁護士費用も高くなります。
そして、裁判所がこのような遺産の処理を行いますと、遺産の内容が一般に公開されますので、プライバシーが守られません。
<遺言書がある場合>
遺言書があると、早ければ6ヶ月ほどで遺産相続の手続きは終了します。
遺言書がない場合に比べて、手続きの手間暇や弁護士費用について、有利になると言えます。
遺言書の内容は公開されてしまいますが、遺言書に書かれていないことは公開されませんので、プライバシーが守られるのが一番のメリットではないでしょうか。
【アメリカ・日本関係なく、遺言書は大切なもの】
アメリカでは、遺言書のある・なしで、遺産相続の手続きが大きく異なります。
そのため、アメリカでは、遺言書を作成することが一般的です。
その反面、日本では、遺言書がある・なしにより、遺産相続の手続きが大きく異なることはありません。
しかしながら、日本においても、マイケルのような遺産相続のプランを作成しておくことで、この世から肉体がなくなったとしても、
・あなたの意思
・あなたが愛する者への想い
は、確実にこの世に生き続けることができます。
【遺言書の作り方が最も重要】
遺言書は「作成さえすれば安心」というわけではありません。
最近、いつもお世話になっている遺産相続を専門とする司法書士や行政書士からよく聞くお話ですが、遺言書の内容に大きな問題があります。
例えば、兄弟が3人おられるので、「平等に1/3ずつ相続させる」などの遺言書を良く目にするそうです。
つまり、ご自宅の土地・建物も1/3ずつ仲良く共有になってしまっている遺言書です。
また、日本独特の権利として「遺留分」というものがありますが、遺留分を侵害している遺言書も散見されます。
このような遺言書を作成してしまいますと、「相続争い」の原因を作ることになります。
このような遺言書を作成するのであれば、作成しない方がまだマシです。
遺言書を作成される場合、然るべき専門家にご相談されることをお勧めします。
【相続税(遺産税)を減らしながら、遺産を次世代へ】
遺産相続プランを作成することで、
・あなたの意思
・あなたが愛する者への想い
は、確実にこの世に生き続けることができます。
さらに、相続税(遺産税)を減らしながら、遺産を次世代へ引き継いでいくことも重要な点です。
以下、アメリカの有名人公用遺言記録から抜粋します。
氏名 | 遺産総額 | 遺産処分費(遺産税など) | 正味遺産額 | 減額率 |
ヘンリー・J・カイザー | 559万ドル | 248万ドル | 310万ドル | 44% |
ヘンリー・J・カイザー・ジュニア | 5591万ドル | 103万ドル | 5487万ドル | 2% |
ジョン・D・ロックフェラー | 2690万ドル | 1712万ドル | 978万ドル | 64% |
ジョン・D・ロックフェラー・ジュニア | 16059万ドル | 2496万ドル | 13560万ドル | 16% |
エルビス・プレスビー | 1016万ドル | 737万ドル | 279万ドル | 73% |
表を見ていただきますと、カイザー家とロックフェラー家は、2代目の遺産税(相続税)の負担割合が大きく下がっています。
先代の遺産税(相続税)の負担の大きさを体感し、自身は適切な遺産相続プランを作成されたものと想像できます。
その反面、適切な遺産相続プランを作成していなかったと想像できるのが、エルビス・プレスビーさんです。
遺産税(相続税)として73%を国に支払い、次世代に引き継がれたのは、わずか27%にしかすぎません。
相続税(遺産税)の負担を減らしながら、適切な遺産相続プランを作成する重要性を、過去の有名人も大いに理解していたことがわかります。
これは、アメリカに限らず、日本でも同じことが言えるのではないでしょうか。
【参考ブログ】
・【アメリカ相続税(遺産税)】グリーンカード(green card)保持者からの遺産相続のご相談(2009/10/26)