先日、相続税の申告書の作成の依頼をいただいたお客様から、次のようなご相談がありました。
5月の下旬頃、テレビ番組で「遺産相続のときには預り口座を作れば便利」だと言っていました。
しかも、贈与税がかからないとか。
預金口座の名義が違うので、相続税もかからないのでしょうか。
【長嶋の回答】
贈与税がかかる可能性は、多少なりともあると思います。
そして、相続税は必ずかかります。
個人的な感想を言えば、あまりお勧めしません。
むしろ、相続争いを起こす原因を作ることになると思います。
【テレビ番組の趣旨】
テレビ番組の趣旨は次のようなものです。
(1)相続が開始すると、銀行口座が凍結されてしまうので、預金が引き出せなくなる。
(2)凍結された口座から預金を引き出すには、
・被相続人の出生から全ての戸籍
・除籍謄本
・遺産分割協議書
・法定相続人の全員の印鑑証明
が必要であり、すべて揃えるのは大変なこと。
(3)相続のときには、葬儀の費用で高額な出費となり、また今後の生活費も下ろせなくなる。
(4)そうかといって、被相続人の生前にご家族が現金を受け取ると、贈与税がかかる。
(5)これを解決するのが、「預り口座」である(贈与税もかからない)。
【銀行口座の凍結は、一般的にはご家族の届け出があってから】
長嶋は、このような内容のテレビ番組が放送されていたことを知りませんでした。
お客様のお話を受けて、テレビ番組のホームページなどで具体的な内容を確認して、お客様にご説明しました。
テレビ番組の編集上気になったのは、お父様が亡くなり、息子さんが銀行へ行き、お父様の口座からお金を引き出そうとしたところ、「口座は凍結されています」と行員から告げられた点です。
銀行口座が凍結されるのは、一般的にはご家族が銀行へ死亡の届け出をしてからであり、息子さんが凍結されていることを知らないはずがありません。
ご家族が銀行へ死亡の届け出をせずに、銀行口座が凍結されるのは、次の2点のケースだと思います。
(1)町内全員が顔見知りな地域で、銀行員も亡くなったことを知っている
(2)新聞などに、死亡された方のお名前が載ったとき
多くの方にとりましては、突然銀行口座が凍結されることはまずありません。
【預り口座を作ることで、相続争いの原因に】
長嶋個人的には、預り口座を作ることで、むしろ相続争いの原因を作るのでは?と心配します。
被相続人の預金口座から、葬儀の費用を引き出すことは一般的に行われます。
また、場合によっては、病院の治療費を払うためのお金を引き出すこともあります。
このような場面で、「勝手にお金を引き出した」ということに関して、相続人の間でトラブルになることもあります。
「お金を引き出した」だけでも相続人の間でトラブルになることもあるのに、テレビ番組のように生前にお父様から現金を預かり、ご家族名義の預金口座を作るようなことをすれば、あらぬ疑いをより持たれる可能性があります。
もし、「預り口座」を作るのであれば、相続人全員の了解を得てからの方が良いと思います。
【贈与税はかからないのか?】
贈与税がかかるのかどうかですが、多少なりとも贈与税がかかる可能性はあると思います。
ご家族が、預り口座から自由にお金を引き出して使っている場合は、贈与と判断される可能性はあると思います。
預り口座のお金の使い道を、
・葬儀費用
・死後、病院へ支払う治療費
など、死亡後に限定しておくことがより安全ではないでしょうか。
【長嶋個人的にはあまりお勧めしません】
長嶋個人的には、次の2つの理由により、「預り口座」はあまりお勧めしません。
(1)銀行口座が凍結される前に預金を引き出せば、何ら問題ない
(2)「預り口座」を作ることで、相続争いや贈与税など、ややこしい問題が出てくる可能性がある