先日、次のような東京地裁での判断が示されました。
(6月11日:産経新聞)
遺産払い戻し拒否は不当 ゆうちょ銀などに支払い命令 東京地裁
貯金や生命保険の還付金など遺産の払い戻し請求に応じないのは不当として、相続人の遺族ら3人が、ゆうちょ銀行(東京都千代田区)と郵便貯金・簡易生命保険管理機構(港区)に遺産の払い戻しを求めた訴訟の判決が11日、東京地裁であった。
湯川克彦裁判官は遺族らの訴えを認め、同行などに請求どおり計約4000万円を支払うよう命じた。
湯川裁判官は「遺族らは遺産分割で争っているわけではなく、遺族らの請求に従って法定相続分どおりの払い戻しをするべきだ」と指摘した。
判決によると、同行などは、顧客の女性が平成13年に死亡し、遺族らから法定相続分どおりの遺産の払い戻しを求められた際、「遺言や分割協議で法定相続分とは異なってくる場合があり、後になって異なる額の払い戻しを求められるおそれがある」などとして、払い戻しを拒否していた。
【そもそも預貯金は遺産分割の対象にはなりません】
預貯金は、当然に、法定相続分の通りに相続をされますので、遺産分割の対象にはなりません。
これは、裁判での判例で確定しています。
繰り返しますが、裁判での判例において、預貯金は、法定相続人が法定相続分に従って請求すれば、金融機関は払い戻しに応じなければなりません。
【実務上は法定相続人全員の署名・押印が必要】
ところが、実際の相続の現場では、裁判での判例が無視されています。
通常、各金融機関の払戻請求書に、法定相続人全員の署名・押印が求められます。
したがいまして、一部の相続人が預金を引き出すときは、訴訟を起こさないと難しいのが現実です。
【金融機関の立場も良くわかります】
金融機関の立場から考えてみます。
確かに、裁判では法定相続分で引き出せることになっているかもしれないが、実務的に後日の相続による争いが起こる可能性が残るのは不安です。
また、「預貯金が遺産分割協議の対象に含まれる可能性があるときは、預貯金の払い戻しを拒否することができる」という判決があります。
裁判の判決においても、相続争いの可能性があるときは、預貯金の払い戻しに応じなくてもよいことが確定しています。
金融機関からすると、このような判決は、実務上、非常にありがたいのではないでしょうか。
【郵便局の定額貯金は引き出すことができません】
銀行などの普通預金などは、訴訟を起こせば、一応は引き出すことができます。
しかしながら、郵便局の「定額郵便貯金」は、引き出すことができません。
郵便局は民営化されましたが、民営化以前の「郵便貯金法」がそのまま引き継がれています。
民営化によって廃止された郵便貯金法7条1項3号に、次のようなことが定められています。
定額郵便貯金は、「一定の据置期間を定め、分割払戻しをしない条件で一定の金額を一時に預入するもの」です。
つまり、「分割による払い戻しをしない」条件ですので、これは、相続のときにも同じことが言えます。
したがいまして、定額郵便貯金だけは、訴訟を起こしても引き出すことができません。
このことについて、東京地裁で現実に判決が出されています。
【相続人側に立った判決が増えてきています】
今年になり、相続人側に立った判決が増えてきています。
2009年1月22日の最高裁の判決でも、相続人側に立った判断が示されています。
相続がありますと、
・葬儀費用の支払い
・医療費の支払い
・お墓の購入
など、多額の現金が必要です。
相続人にとりましては、本当に助かる裁判所の判断です。
このような裁判所の判断で、多くの方が救われています。
これは、相続の現場に接している者として、痛いほど感じます。
相続人の方を第一に考えますと、金融機関は、もうそろそろ、考え方を変えていかなくてはいけないのではないでしょうか。