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遺産相続税相談室|長嶋佳明税理士事務所
相続専門FPの税理士長嶋佳明が語る『お金』事情

【遺産相続税相談】不動産の共有名義による相続争いの危険性事例

  • 2008/11/11

先日芦屋の長嶋事務所にて、次のようなご相談がありました。

マイホームが母と私(ご相談者)の共有名義となっています。
このとき、母に相続が発生すると遺留分の権利を請求されるのでしょうか?
私(ご相談者)と兄弟は日頃からあまり仲がよくありません。
相続税を納めない範囲内の相続になる予定です。

 

 

【家族構成】

母(健在ですが痴呆が進行しています)・私(ご相談者)、兄弟1人

【ご相談の経緯(※相続財産の評価額などの数字は実際のものとは異なります)】
父(既に他界)の相続のときに、母が相続をした土地の上に、私(ご相談者)名義でマイホームを建てました。
母にも建築費用の3割を負担してもらい、私(ご相談者)の家族(妻・子供2人)と同居しています。

マイホームの土地は、すべて母名義。
マイホームの建物は、母が3割、私(ご相談者)が7割の名義です。

概算で現在、母名義の財産は次のようなものがあります。
・マイホームの土地、5000万円
・マイホームの建物のうち、3割部分(数百万円程度)
・預金、400万円
・株、200万円
合計6000万円程度です。

 

相続税の非課税枠は、5000万円+1000万円×2人(法定相続人の数)=7000万円
遺産 6000万円 < 相続税の非課税枠 7000万円
となりますので、相続税はかからない計算になります。

 

 

【遺留分の請求をされる可能性が高い】

ご相談者は大変勉強熱心な方でした。
ご相談者が心配されているように、ご兄弟の仲が悪い関係ですと遺留分の権利を請求される可能性が非常に高いです。

 

 

【遺留分とは?】

遺留分とは、簡単に、相続人の方が最低限の生活ができるような財産を相続できるように、民法で保証されている権利です。

残された家族がマイホームや現金など、生活に必要な財産を相続できなければ、生活することができなくなることも考えられます。
それではあまりにも可哀想ということで、民法では遺産のうち一定割合を相続人が相続できるように定めています。

 

 

【遺産について民法に定められている相続人の遺留分】

基本的に法定相続分の1/2が、相続人の遺留分として認められています。

ご相談の事例ですと、ご相談者と兄弟の法定相続分は1/2ずつ。
この法定相続分1/2の1/2が遺留分として認められている権利です。
つまり、遺産のうち「1/2×1/2=1/4」が遺留分としての権利です。
金額にしますと、6000万円×1/4=1500万円。

遺産のうち、最低1500万円は兄弟の方が相続する権利をもっています。

 

 

【遺留分という権利を知っていれば共有名義にしなかった】

ご相談者は次のようにお話されました。
「遺留分という権利があることを知っていればマイホームを共有名義にしなかったです。親子間の共有名義なら不都合になることもないだろうと安易に考えていました・・・」

 

 

【遺言書も作成できない】

ご相談者の母は痴呆が進行している状態ですので、遺言書を作成したところでそれが遺言書として認められるかどうか難しい状況です。
したがいまして、この事例ですと遺言書を作成することは極めて難しいと思います。

 

 

【遺産分けをすることができるのか?】

将来、相続があったときに遺産分けをすることができるのか?という問題が出てきます。

遺産の総額は6000万円。
うち、すぐに換金できるものは、預金400万円と株式の200万円、計600万円です。
遺産のうち、最低1500万円は兄弟の方に渡さないといけません。
換金できる遺産すべてを渡しても600万円。
残り900万円はどうしましょう!?
現状のままでは、ご相談者自身が建てられたマイホームを兄弟との共有名義にするしかないです。
本当にそれで良いのでしょうか・・・

 

 

【遺産分けをする方法は3つあります】

通常、遺産分けの方法として次の3つがあります。
(1)現物分割
例えば、土地は母が相続し、建物は長男が相続し、預貯金は長女が相続し、株式は長男と長女が1/2ずつ相続する・・・
というように、遺産そのものを現物で遺産分けする方法です。

(2)換価分割
遺産を売却し、その売却代金を相続人で分ける方法です。
あくまで「遺産の売却」ですので、譲渡益が出ればもちろんのこと「所得税」が課税されます。

(3)代償分割
例えば、土地・建物をすべて長男が相続する代わりに、長男から次男へ現金3000万円渡す・・・
というように、遺産を多く相続する代わりに、他の相続人に金銭などを渡す方法です。

 

この事例の場合。
(1)現物分割
換金性のある預金・株式をすべて兄弟に相続させても900万円の遺留分を侵害しています。
したがいまして、この遺産分けの方法は使えません。

(2)換価分割
遺産のうち売却できるものは、マイホームの土地・建物しかありません。
マイホームを売却してしまっては、ご相談者は生活できなくなります・・・
したがいまして、この遺産分けの方法を使うことは得策とは言えないと思います。

(3)代償分割
ご相談者が兄弟の方へ900万円の現金を渡せばすべてが解決します。
ただ・・・
ご相談者は、マイホームを建てるときに住宅ローンを組んでいます。
早期完済をされたいということで、住宅ローンの繰上返済を積極的にされたそうです。
そのため、住宅ローンは完済しましたが、手元には現金はほとんど残っていません。
また、子供さんは高校生と中学生のお二人がいらっしゃいます。
これから子供さんの進学を控えており、学費が必要となる時期です。
このような家庭事情から900万円を現金で準備するのは難しいです。
したがいまして、この遺産分けの方法を使うのは非常に難しいと思います。

いったいどうすればよいのでしょうか・・・

 

 

【一番最悪なケースはマイホームの売却】

一番最悪なケースは、マイホームの売却を迫られたときです。
せっかく住宅ローンの繰上返済をして住宅ローンを完済したのに、マイホームを売却するようなことになれば・・・
・今まで何のために住宅ローンの繰上返済をしてきたのか?
・マイホームが売却されたら生活する場所がなくなるので、これからの生活をどうするのか?
・母の相続の時期によっては、マイホームの売却により住まいが変わるので、子供さんは転校をすることになるかもしれない

このように、ご相談者の人生計画そのものが壊れてしまいます・・・

 

 

【相続による争いは相続税を納めなくても起こる可能性がある】

この事例では、相続税を納める必要のないご家庭です。
しかしながら、相続による争い(遺産分け)は将来に起こる可能性は非常に高いと思われます。

このようなことから、相続による争い(遺産分け)と相続税を納めることはまったく別問題ということがわかります。
したがいまして、相続税を納めないからといって相続は関係ないということではありません。

重ねて申し上げますが、「相続」と「相続税」は言葉は似ていますが、まったく別問題とご理解いただけたら幸いです。

 

 

【相続税改正により相続税を納める可能性】

事例のご家庭では、現在の相続税法で計算すると相続税はかからないというお話です。
改正が予定されている相続税法では、相続税を納める可能性が非常に高くなります。

遺産分けという問題の他に、相続税を納めることができるのか?という新たな問題が出てくるものと予想されます。
事例では、ご相談者は相続税を納めるための現金を確保できる換金性の高い預貯金や株といった遺産を相続できないことが予想されます。
ましてや、ご相談者の子供さんの進学が控えており、これから10年間くらいは多額の現金が必要な時期となります。
もし、そこに母の相続が重なれば・・・
・ご相談者の住む家がなくなる危険性
・ご相談者の相続税を納めることができない危険性
が出てきます。

 

 

【将来の相続のことも考えてのライフプランサポート】

もう少し早く長嶋と出会っていれば、
・住宅ローンの返済の仕方
・子供さんの教育費の準備方法
など、将来の相続のことを考えてのライフプランサポート をさせていただけたものと思います。

今の状況でもご相談者のお悩みは解決できますので、手遅れになっていなかったことが幸いです。

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