先日、次のような遺産相続のご相談がありましたので、ご紹介します。
【相談内容】
私たち夫婦には子供がいません、先日公証役場で遺言書を作成しました。
家族は、私たち夫婦と、夫の父と夫の妹がいます。
(1)夫に万が一のことがあった場合、誰に相続の権利があるのでしょうか。
(2)夫が先に他界し、その後夫の父に万が一のことがあった場合、妻には相続の権利があるのでしょうか。
【長嶋の回答】
(1)夫に万が一のことがあった場合、妻と夫の父が相続人となります。
相続の権利は、妻が2/3、夫の父が1/3となります。
公証役場で遺言書を作られたそうですが、遺言書の内容を確認されることをお勧めします。遺言書の内容が「遺留分」という権利を侵害していると、夫の父から遺留分の権利を請求される可能性がありますのでご注意ください。
(2)夫が先に他界し、その後夫の父に万が一のことがあった場合、妻には相続の権利はありません。夫の妹が相続人となります。
夫が先に他界されますと、ご夫婦で築いてこられた財産の一部は夫の父が相続することになります。
夫の父の相続のときには、夫の妹が相続することになりますので、せっかくご夫婦で築いてこられた財産の一部は、夫の妹が相続しますので、妻が相続することはできません。
このようなときのことを考えて、「妻に相続させる」内容で遺言書を作成されることも検討されてはいかがでしょうか。
【遺言書を作れば安心というわけではありません】
世の中には「遺言書さえ作っておけば安心」という風潮があります。
この相談者も、お話の口調からそのようにお考えのようだとすぐにわかりました。
長嶋個人的には、これは大きな間違いだと思っています。
一番大事なのは遺言書の「内容」です。
・遺言書の内容が、遺留分の権利を侵害していることから、相続による争いが起こる
特に、信託銀行などの「遺言信託」を利用して作られた遺言書には、こうした欠陥があることが多く、遺言書で相続争いを起こさせるのか?と思うことが多々あります。相続の現場で動いている長嶋としては、相続による争いを起こさせる遺言書を信託銀行などで作るのでしたら、むしろ遺言書は作らないでほしいと思うこともあります。
信託銀行などの遺言信託の担当者にはノルマがあります、数をこなす・売上をあげることが最優先です。信託銀行などで作られる遺言書、それは信託銀行などで扱う数多くの遺言書の中の一つですが、遺言書を作成される方にとっては、一生に一度の遺言書です。このように、遺言書にどれだけの「想い」を込められるかという心の持ち方が、信託銀行などと遺言を作成される方との間には温度差があります。こういった理由から、信託銀行などでは、おひとりおひとりの遺言書と心をこめて接することができないのは、致し方ないことだと思います。
・必ず、遺言書の内容通りに遺産が分割されるとは限らない
相続人が、遺言書の内容に不満があるとき、相続人全員で合意すると、遺言書の内容を無視して、遺産を分割することができます。この場合、遺言書よりも相続人全員での合意が優先されます。したがいまして、必ず遺言書の内容通りに遺産が分割されるとは限りません。このようなことから、遺言書を作成するときは、ご自身おひとりではなく、相続人となる方々と家族会議を開いて、ご自身の「想い」を伝え聞かせることも大事なことだと思います。
このような思わぬトラブルに巻き込まれることもある、少しでも頭の隅に置いていただけたら幸いです。