遺留分に関する民法の特例を受けるには「合意」が必要です。
中小企業経営承継円滑化法の第四条から、具体的なお話に入っていきます。
第四条 旧代表者の推定相続人は、そのうちの一人が後継者である場合には、その全員の合意をもって、書面により、次に掲げる内容の定めをすることができる。ただし、当該後継者が所有する当該特例中小企業者の株式等のうち当該定めに係るものを除いたものに係る議決権の数が総株主又は総社員の議決権の百分の五十を超える数となる場合は、この限りでない。
【解説】
会社の後継者は、遺留分の権利を持つ相続人全員と合意することで、次の内容を定めることができます。
ただし、会社の後継者が保有する会社の株式のうち、書面で定めたものを除いた議決権が50/100を超えるときは、合意をしても定めることはできません。
つまり、会社の後継者が先代の社長から、贈与・相続・遺贈により取得した株式の議決権が50/100以下であるときは、この制度を利用することはできません。
会社の後継者であるためには、先代の社長から会社の株式を贈与・相続・遺贈により過半数取得している(会社の経営権を握る)ことが条件となります。
会社の経営権を握っていなければ、会社の後継者ではないという考え方なのでしょうか。
一 当該後継者が当該旧代表者からの贈与又は当該贈与を受けた旧代表者の推定相続人からの相続、遺贈若しくは贈与により取得した当該特例中小企業者の株式等の全部又は一部について、その価額を遺留分を算定するための財産の価額に算入しないこと。
【解説】
会社の後継者が会社の社長から贈与または相続・遺贈により取得した会社の株式の全部または一部について、その会社の株式の価額を遺留分を計算するときの財産の価額には含めないことを決めることができます。
つまり、会社の株式には遺留分の権利はなくなる(会社の後継者がすべて会社の株式を相続することができる)ということです。
二 前号に規定する株式等の全部又は一部について、遺留分を算定するための財産の価額に算入すべき価額を当該合意の時における価額(弁護士、弁護士法人、公認会計士(公認会計士法(昭和二十三年法律第百三号)第十六条の二第五項に規定する外国公認会計士を含む。)、監査法人、税理士又は税理士法人がその時における相当な価額として証明をしたものに限る。)とすること。
【解説】
遺留分を計算するときの財産の価額に含めないことにした会社の株式の価額は、遺留分の権利を持つ相続人全員と合意をしたときの価額とする。
ただし、この株式の価額は弁護士・弁護士法人・公認会計士・監査法人・税理士または税理士法人が証明しなければなりません。
つまり、この制度を利用するときの会社の株式の評価は、弁護士・公認会計士・税理士が証明しなければなりません。
2 次に掲げる者は、前項第二号に規定する証明をすることができない。
一 旧代表者
二 後継者
三 業務の停止の処分を受け、その停止の期間を経過しない者
四 弁護士法人、監査法人又は税理士法人であって、その社員の半数以上が第一号又は第二号に掲げる者のいずれかに該当するもの
【解説】
先代社長・会社の後継者本人は、当然のことながら証明をすることはできません。
また、弁護士・公認会計士・税理士であっても懲戒処分などにより、弁護士業務・公認会計士業務・税理士業務をすることを停止されている者は証明することはできません。
さらに、弁護士法人・監査法人・税理士法人のうち、上記の証明をすることができない者が、各法人の役員に就任しているときは、証明することができません。
つまり、当事者間では証明したことにはならず、また各専門家であっても懲罰を受けている者は証明できないということのようです。
3 旧代表者の推定相続人は、第一項の規定による合意をする際に、併せて、その全員の合意をもって、書面により、次に掲げる場合に後継者以外の推定相続人がとることができる措置に関する定めをしなければならない。
一 当該後継者が第一項の規定による合意の対象とした株式等を処分する行為をした場合
二 旧代表者の生存中に当該後継者が当該特例中小企業者の代表者として経営に従事しなくなった場合
【解説】
会社の後継者は、遺留分の権利を持つ相続人全員と合意をして、書面にて、会社の後継者以外の相続人と次のようなことになったときにはどのような対応をとるのかを決めなければなりません。
(1)遺留分の計算に含めないこととした会社の株式を手放すことになったとき
(2)先代の社長が生存中に、会社の後継者が会社の社長ではなくなったとき
つまり、この制度は会社の株式を会社の後継者に相続させることを目的としています。
会社の株式を相続させるということ、それは会社の経営権を会社の後継者が握るということです。
会社の株式を売却したり、会社の経営を辞めてしまったときは、ほかの相続人に対してどうするのか?を書面により合意することを求めています。