相続のルールを定めている民法では、故人の遺産は相続人が取得することを前提としています。
農地には、固定資産税が安くなることや、相続税の納税をとりあえずしなくてもよい(納税猶予)など、様々な優遇制度があります。
これらの優遇制度を受けるには、相続人が農業を続けることが大前提となります。
税金の優遇がされているのに、農地を売却する理由は次の2つが多いのではないでしょうか。
(1)農業をされている方の子供さん(将来の相続人)が農業を続ける予定がないので、農地を持っていても仕方がない
(2)相続税が高くて払えないので、相続税を払うためのお金を作るため
農業を続けないのでしたら、農地を持っているだけで固定資産税を払うことになりますので、農地は何の役にも立たないマイナスの遺産となります。
農地を持っている意味がなくなってしまいます。
そのため、少しでも収入を得ようと都市部の農地がマンションに変わっていくのだと思います。
【相続のルールが時代に合わなくなってきている】
農地が少なくなるということは、日本人の食卓は中国などの輸入品に頼ることになります。
日本という国にとっては、相続税を取ることも大事ですが、農業を守っていくことも必要だと思います。
農地について、法律なりルールなりを変えていかないと、都市部から農地がすべて消える日も近いと思います。
具体的には、相続人以外の人が農地を相続しても、相続税などの税金を優遇するなどが必要かと思います。
相続のルールを定めている民法、そして相続税のルールを定めている相続税法は今の時代に合わなくなってきているようにも感じます。
【相続税が高いから払えないのではありません】
相続税が高いから払えないのではなく、相続税を払えるようにする準備をしていないから相続税が払えないのだと思います。
農家やマンション経営をされている方などは、農地やマンションの敷地などの土地はたくさん持っているけれど、相続税を納める現金を持っていない方が多いです。
相続税を納めるための準備を事前にしておくことも必要だと思います。
(毎日新聞2/18)
都会の畑、相続税払えず売却 減る生産緑地
保存・維持していくことが前提の都市圏に残る農地「生産緑地」が、じわじわと姿を消している。最も面積があった95年度から10年間で、東京ドーム約198個分が減った。緑地を守ってきた人の死亡で緑地が相続対象になると、相続人が相続税の支払いのために指定を解除し、業者に売却するケースが増えているためだという。自治体が買い取るのが原則だが、面積が中途半端で公共用地としての使用には適さない土地が多く、ほとんど買い取られていない。「都市の緑を減らさないための新たな仕組みが必要だ」という声が農家や識者からあがっている。
周囲に住宅が立つ生産緑地では、キャベツなどが育てられ、地元の児童が社会見学に訪れていた=東京都練馬区大泉町で
コマツナにネギ。東京都練馬区の野菜農家、白石好孝さん(53)が耕す1.3ヘクタールの生産緑地に青々とした野菜が並ぶ。
91年の生産緑地法の大幅改正を機に、92年4月に指定を受けた。改正で営農や利用の条件が厳しくなって自由に売買できなくなったが、「本気で農業をやるには欠かせない農地」だったからだ。さらに92年から始まった市街化区域農地への宅地並み課税の対象外となる優遇措置も魅力だった。白石さんは「生産緑地にならないと税金が高すぎて、農業は成り立たなかった」と振り返る。
江戸時代から続く農家に生まれ、24歳で就農した。少量多品種の栽培手法で、直売所や学校、スーパーに出荷。体験農園も開くなど積極経営を続ける白石さんだが、最近、生産緑地の宅地化が相次いでいることに危機感を抱く。
「緑の景観や土と触れ合える役割が高まっているのだから、維持していく新しい仕組みが必要だ」
農家にとって、生産緑地の最大の利点は税金だ。地価の高い3大都市圏では、農地への課税が宅地並みになると、固定資産税は生産緑地の数十倍から数百倍にも膨らむ。
宅地並み課税が始まった92年は、バブル期の地価高騰も反映。92年度の課税標準額から、東京23区内の100平方メートルあたりの固定資産税を標準税率(1.4%)で算出すると、宅地は14万3820.6円。緑地指定を受けていない市街化区域農地は5万684.2円。
一方、生産緑地はわずか287円。平均値のため、場所によっての金額差はもっと大きかったという。意欲的な都市農家ほど、積極的に生産緑地の指定を受けた。
税金面で優遇されていても、生産緑地は減っている。その面積は、95年度の約1万5500ヘクタールがピークで、00年度までの5年間に約260ヘクタール、その後の5年間では一気に660ヘクタール余りも減少した。
JA(農業協同組合)関係者などによると、減少の理由のほとんどは、高齢者の多い生産者の死亡とその相続で、高額な相続税の支払いのために手放すのだという。結局、緑地にはアパートなどが建つ。JA東京あおば(東京都)の地域振興部の渡辺和嘉部長も「相続の仕組みを何とかしないと、生産緑地も他の農地も減る一方だ」と話す。
農地として使われなくなった生産緑地は、自治体による買い取りが原則だが、この仕組みは機能していない。
練馬区には、生産緑地の所有者から03年度~07年度の5年間で108件の買い取り要請があったが、区の購入はゼロ。92年度までさかのぼっても区による買い取りは体育館用地の1件のみだという。区の担当者は「面積が狭くて、公共施設が建てられないケースが多い。財産的にも、高額な土地を無目的には買えないからだ」と話す。
この5年間に337件の買い取り申請があった名古屋市では、購入は1件のみ。同じく70件の申請があった大阪市では、買い取りゼロだった。
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〈後藤光蔵・武蔵大教授(農業経済学)の話〉
緑地の減少が続く都市部では、生産緑地そのものが貴重な緑地の役割を担っている。都市機能と農業の共生を考えれば、生産緑地の保全は不可欠だ。いまは農家世帯での農業継承が前提だが、貴重な生産緑地を先々も維持していくには、NPOや意欲的な農家に継承できる仕組みを考えていかなければならない。
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〈生産緑地〉
都市部に残る緑地を守る狙いで1974年に制定された生産緑地法に基づき、市町村から指定を受けた農地。1区画500平方メートル以上のまとまった土地であることや30年間の営農などが条件で、指定されると自由な売買やアパート建築などの農業目的以外での使用が出来なくなる。一方で、3大都市圏にある特定市(210市、東京23区は1市とみなす)の市街化区域農地への宅地並み課税の対象とならない。生産緑地法の規定によると、農業従事者の死亡などで農業が続けられなくなった場合には、まず自治体に申し出て時価で買い取ってもらうのが原則。買い取られなければ、目的外使用の制限が解除される。